現場で遭遇した急変時対応②~気道閉塞~
その患者さんは、抗凝固薬である点滴のヘパリンを持続投与されており、その後抗凝固薬の内服へ移行されたところでした。ちなみに意識は元々あいまいでした。
医療者の方用に言うと、JCSでⅡ群くらいです。
※抗凝固薬は血液を固まらせにくくするためのお薬です。
腎臓の機能が悪いため、ブラッドアクセスとしてクイントンカテーテル(透析をするための管)を試みました。
頸部(首の所)に挿入はできたのですが、出血しやすいため、クイントンカテーテルの刺入部に皮下血腫が形成されました。
血腫が形成された場合、看護師は血腫の範囲をマジックでマーキングして、その範囲からの拡大がないか必ず観察します。
その日の夜勤で、やはり血腫の拡大がみられたためクイントンカテーテルを抜去。
以降は軽度拡大も、当直Drにて様子観察となっており、状態の変化はなく経過されました。
そして翌日の朝に念のためCT撮影にいき、帰室後からは日勤帯での対応となりました。
そしてその日勤で僕がいました。
その時の病棟では朝の時間に陰部洗浄や清拭をメンバーやスタッフでまわっていく方針でした。
僕は全体での申し送りで、そのような状態の患者さんがいることを聞いていたので、
担当患者ではなかったのですが、少し気になったので、様子を見ておこうと患者のもとを訪室しました。
amotasu「微妙やな、、、。」
シーソー呼吸や陥没呼吸は著明には分かりませんでしたが、明らかに浅く、頻呼吸が見られました。
僕は頸部の血腫により気道が圧排されることでの(肺までの空気の通り道)気道狭窄による呼吸状態の悪化が予期されるが、
最悪気管挿管までだろうと、ある程度のパターンまでは想像しました。
※シーソー呼吸、陥没呼吸:上気道の閉塞や狭窄などで見られる呼吸です。
ちなみに医療者の方で、窒息しかけの呼吸パターンを自分で確認したいという方は、
細いストローで頑張って呼吸してみて下さい。
おそらく、先ほど挙げた呼吸パターンがみられると思います。
amotasu「とりあえず酸素投与しようか、一応最悪挿管することまでは予想しておき」
後輩Ns「分かりました」
受け持ち看護師は後輩Nsでしたので、そう伝えたのちに主治医が来ました。
Dr「血腫もまだ拡大してそうですし、採血してとりあえずクイントンを別のところから入れましょうか」
amotasu「手伝うね」
このような場合は日勤フリー看護師が処置につくんですが、気にもなってましたし、時間もあったので少し手伝うことにしました。
そして処置の準備をしている時、ふと患者をみたら。
amotasu「先生、患者さん息止まってませんか!?」
Dr「えっ、、、」
amotasu「胸骨圧迫(心臓マッサージ)開始しますよ!」
血腫形成による気道閉塞からの心肺停止でした。
amotasu「とりあえず落ち着いて。後輩Ns、院内緊急コールしてくれる?」
院内緊急コールが押され、多数のDrとNsが駆けてくれました。
窒息による心肺停止の場合に一番大事なのは、速やかに気道を開通させる事です。
それができないと、どれだけ心臓マッサージをしていての心臓は動きません。
Dr「挿管します!」
※気道に専用の管を入れる事。この管と酸素を送るマスクをつなげて換気したり、人工呼吸器をつなげたりします。
しかし、ここでアクシデントが。
Dr「気道がふさがり過ぎて挿管できない!バックバルブマスクでの換気もできない!」
つまり、気道が血腫によって完全にふさがってしまい、口から気道へ専用の管が全く通らない状態でした。
この状態でなにもできなければ、患者は死んでしまいます。
amotasu「輪状切開セット持ってきて!」
この方法は、知識のある人や救急領域での経験がある方はご存知の方がいると思います。
正確には、輪状甲状間膜穿刺あるいは、輪状甲状間膜切開と2つの方法があるんですが、
簡単にいうと、気道がふさがってるので首に専用の針を刺すか、切ってそこから専用の管を挿入し、肺を換気するという方法です。
応援Ns「分かりました!」
そのセットは院内の決められた場所にしかないので、急いで取りにいってもらいました。
応援外科Dr「その間に首穿刺しよ!」
応援Nsがセットを取りに行っている間に応援に来ていた外科Drが輪状甲状間膜穿刺を試みました。
応援外科Dr「あかん、頸部の腫脹が大きすぎて針がとどかん!」
この時、血腫がさらに拡大したことで、首がふとくなりすぎて針の長さが気管まで届かない状態でした。
この間も交代しながら心臓マッサージは続けられました。
そして、、、
応援Ns「輪状切開セット持ってきました!」
すぐさま輪状甲状間膜切開が施されましたが、心肺停止により人工心肺装着の可能性も考えられ、そのまま急いで緊急カテーテル検査に行きました。
この間、時間でいうと10~15分でした。
その後、
患者はカテーテル室へ着いた時点で心臓が動いているのを確認され、息を吹き返しました。
やはり検査の結果、心臓には問題なく、頸部血腫による気道閉塞が心肺停止の原因でした。
実はamotasu、今回のような場面を昔も一度経験したことがありました。
ですので、ある程度までの危険予測はできていましたし、挿管ができない場合でもその時の手段を知っていたので、あわてることはありませんでした。
しかし、もし何もしらなければ、、、。
急変はいつどのような形で起こるか分からない。
実際、今回のような急変の症例はあまりないかと思います。(11年働いて2回)
ですが、僕たちはプロです。
知りません、出来ませんでは許されません。
そのためには日々の研鑽を怠ってはいけないのです。
得て損する知識なんてありません。
これからも人と命に関わる仕事であることを忘れることなく精進しよう。